AI導入前に、社内データの番号を説明できる状態へ
AI-Readyのデータ整理とは? 顧客コードの「意味」と「つながり」を確認する方法
社内のExcelやシステムからデータを集め、列名と日付形式をそろえた。次にAIで集計や検索を試そうとしたところ、顧客コードが何を指すのか、システムごとに説明が違う——。AI導入前のデータ整理では、この段階を曖昧にしたまま先へ進めません。
この記事では、顧客に関する番号を例に、次の内容を確認する方法を説明します。
- その番号は、何を一件として識別しているか
- 別の番号と、両方の向きで何件ずつ結びつくか
- ゼロ件、部分対応、例外、空欄をどう扱うか
- 表を結合した後も、件数や金額を説明できるか
AI・データ活用の準備を任された方でも、専門用語を先に覚える必要はありません。実際の帳票・画面・データを使って確認します。
形式をそろえた次に見ること
AI-Readyのデータ整理では、名前の統一だけでなく「意味」と「つながり」を確認する
経済産業省のMETI Journalでは、AI-Readyを、企業がAIを効果的かつ安全に使えるよう、データを整理・構造化して活用可能な状態にすることと説明しています。さらに、データへ意味や関係性を付け、AIが理解できる状態にする必要性にも触れています。
形式の確認
表記・日付・単位をそろえ、必須項目の欠けや重複を確認する
意味と関係の確認
一件の単位、別データとの結びつき、ゼロ件、例外、空欄を説明する
たとえば、二つの表に同じ C-001 があっても、片方が「契約先」、もう片方が「納品先」を表していれば、同じ単位のデータではありません。名前や桁数がそろっているだけでは、安全に結合できないのです。
「顧客」を一つの言葉で済ませない
まず「顧客」を契約先・請求先・納品先に分ける
ここからは説明用の仮想例です。実在する企業の事故や改善効果を示すものではありません。
ある会社では、日常会話で次の三つをまとめて「顧客」と呼んでいます。
| ID | 実際の番号 | 一件の意味 |
|---|---|---|
| 契約先コード | C-001 | 契約を結ぶ法人または事業者一件 |
| 請求先コード | B-021 | 請求書を送る宛先一件 |
| 納品先コード | N-101〜N-103 | 商品やサービスを届ける拠点一件 |
この例では、契約先 C-001 に請求先 B-021 が一件、納品先 N-101〜N-103 が三件結びつきます。
さらに、売上は契約先単位、問い合わせは納品先単位で記録されています。番号ごとの「一件」が違うため、同じ顧客関連データでも、集計の単位は同じではありません。
C-001 から、請求先1件と納品先3件へつながります。売上と問い合わせは異なる単位で記録します。結合しただけでは集計できない
一つの売上が3回数えられる仮想例
契約先別売上に、契約先と納品先の対応表をそのまま結合するとします。
契約先別売上
| 契約先コード | 売上金額 |
|---|---|
C-001 | 300,000円 |
契約先と納品先の対応
| 契約先コード | 納品先コード |
|---|---|
C-001 | N-101 |
C-001 | N-102 |
C-001 | N-103 |
契約先コードだけで二表を結合すると、次の三行ができます。
| 契約先コード | 納品先コード | 契約先単位の売上金額 |
|---|---|---|
C-001 | N-101 | 300,000円 |
C-001 | N-102 | 300,000円 |
C-001 | N-103 | 300,000円 |
納品先との対応三行は正しいため、削除しません。ただし、300,000円は契約先単位の売上です。納品先ごとに分けるルールがないままこの列を合計すると、900,000円になってしまいます。
この例で確かめるべきなのは、AIや集計ツールの性能ではありません。
- 売上は何を一件として記録した金額か
- 契約先一件に納品先は最小何件、最大何件あるか
- 納品先がゼロ件の契約先は存在するか
- 売上を納品先ごとに分けるルールがあるか
- 分けるルールがない場合、どの単位で集計を止めるか
この例での処理:契約先と納品先の対応三行は保持します。売上の合計は契約先単位で一度だけ計算します。納品先別の金額が必要なら、先に分け方のルールを決め、契約先単位の売上とは別の列として扱います。
一行に一つの関係を書く
関係ごとに確認する8項目
一行には、一つの関係だけを書きます。矢印の左を起点、右を相手とします。「左から右」は「左の一件に、右が何件結びつくか」、「右から左」はその逆です。関係相手を混ぜず、業務説明と実際のデータが一致しない箇所、未確定のまま保留すべき事項を見つけます。
| 確認する関係 | 実際の番号 | 左右の一件の意味 | 左から右の件数 | 右から左の件数 | ゼロ件・部分対応 | 空欄・例外 | 確認担当 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 契約先 → 請求先 | C-001 → B-021 |
左:契約主体一件 右:請求書送付先一件 |
契約先一件に請求先は0件以上 | 請求先一件を契約先一件以上で共用するか確認 | 契約直後は請求先0件でよいか。本社一括請求はあるか | 未登録・該当なし・不明を区別。案件別請求は例外か | 営業・経理担当 |
| 契約先 → 納品先 | C-001 → N-101〜N-103 |
左:契約主体一件 右:納品拠点一件 |
契約先一件に納品先は0件以上 | 納品先一件が複数契約先に属するか確認 | 契約後・納品前は0件でよいか。一部商品のみ別拠点か | 未定・該当なし・廃止済みを区別。期間限定拠点を確認 | 営業・物流担当 |
| 契約先 → 売上 | C-001 → S-9001 |
左:契約主体一件 右:対象月の契約先別売上一件 |
契約先一件に売上は0件以上 | 売上一件は原則一つの契約先に属する | 売上計上前は0件。取消・訂正時の元行を残すか | 未計上・金額不明を区別。納品先別に分ける場合は別ルール | 営業・経理担当 |
| 納品先 → 問い合わせ | N-101 → Q-501 |
左:納品拠点一件 右:問い合わせ一件 |
納品先一件に問い合わせは0件以上 | 問い合わせ一件が複数拠点に関係するか確認 | 問い合わせ0件は通常。複数拠点にまたがる事象を確認 | 納品先未特定・全社共通を区別。統合案件は例外か | 顧客対応・現場担当 |
ゼロ件は、登録漏れとは限らない
契約直後で納品先が未定なら、ゼロ件は正しい業務状態かもしれません。「0件」と「1件以上」を区別します。
空欄の理由を分ける
「未登録」「該当なし」「不明」「廃止済み」を同じ空欄として保存すると、後から理由を判定できません。すぐに値を補う前に、業務上の状態を分けて記録します。
項目名ではなく、代表データで確かめる
実際のデータで確認する順番
- 01
AIで扱いたい業務を一つ決める
「全社の顧客データ」ではなく、「月次の契約先別売上を説明する」など、結果を確認できる業務へ絞ります。
- 02
帳票・画面・CSVから実際のデータを三件以上集める
項目名だけで考えず、通常例、ゼロ件または空欄例、例外例を含めます。個人情報や機密情報は、利用権限と取り扱いルールを確認してから扱います。
- 03
各IDの一件の意味を業務担当者へ聞く
「顧客コードです」ではなく、「契約を結ぶ法人一件です」のように書きます。入力担当、集計担当、現場担当で説明が違えば、その差を残します。
- 04
両方の向きの件数を確認する
「契約先1件に納品先は何件あるか」だけでなく、「納品先1件は契約先何件に属するか」も確認します。現在の実際のデータだけでなく、業務上許される最小件数と最大件数を記録します。
- 05
代表データを結合し、件数と金額を照合する
結合前後の行数、重複を除いたIDの数、合計金額を比べます。増減の理由を説明できない場合は、その結合をAI連携や本番集計へ進めず、未確定として保留します。
知式の適用方法
知式がこの確認にTMを使う理由
知式では、実際の帳票や画面にある番号・言葉を入口に、業務に何があり、何が起こり、それらがどう関係し、どの制約があるかを整理する際、Theory of Models(TM)を使います。
この記事では、そのうち次の確認へ絞って適用しています。
- 一件の単位
- 両方向の件数
- 多対多になる条件
- ゼロ件と部分対応
- 例外
- 空欄の意味
これは経済産業省が推奨する方法ではありません。METI Journalの説明にある「意味」と「関係性」を、知式が実際のデータで確認するための適用方法です。TMの一次資料として、佐藤正美『事業分析・データ設計のためのモデル作成技術入門』を参照しています。
意味と関係はAI-Readyの一層
AI-Ready全体では、データ品質・権限・運用も確認する
IDの意味と関係を説明できる状態は、AI-Readyの一層です。AIで業務データを扱う前には、少なくとも次の観点も別途確認します。
- 欠損、重複、正確性、更新頻度
- 誰がどのデータへアクセスできるか
- 個人情報、機密情報、利用目的
- 出典、更新履歴、監査方法
- AIの出力を誰が確認し、誤りをどう訂正するか
- データ定義を変更したときの管理担当
意味と関係の確認表だけで、AI-Ready全体が完成するわけではありません。一方で、この層が曖昧なまま形式だけをそろえると、結合・集計・検索の単位を誤る可能性が残ります。
結合前の区切り
まとめ:結合前に、一件の意味と両方向の件数を説明する
AI導入前のデータ整理では、列名や形式に加えて、各IDの一件の意味と関係を確認します。
まず一つの業務を選び、実際のデータを集め、左から右・右から左の件数、ゼロ件、部分対応、例外、空欄を表に残してください。最後に代表データを結合し、件数と金額の増減を説明します。
この確認結果は、その後にどの単位で集計し、どの条件で表を結合し、説明できない行をどこで保留するかを決める材料になります。
- 1対象業務のIDごとに「一件の意味」を一文で書ける
- 2両方向の最小件数と最大件数を記録できる
- 3ゼロ件・部分対応・例外・空欄の意味を保留も含めて管理できる
- 4代表データの結合前後で件数・金額の増減を説明できる
- 5説明できない行をAI連携・統合の対象から保留できる
確認を始める前に
よくある質問
誰と確認すればよいですか?
データの入力担当、数字を業務で使う担当、システム管理者の三者で、同じ実際のデータを見ながら確認します。一人の説明だけで確定せず、項目名・実際のデータ・業務上の意味が一致するかを比べます。
どこまで確認できればAI利用へ進めますか?
対象業務で使う各IDの一件の意味と両方向の件数を説明でき、代表データの結合前後で行数・重複を除いたIDの数・金額の増減を説明できることが一つの区切りです。説明できない行や例外は削除せず、対象外または保留として管理します。その後、品質、権限、利用目的、出力確認の条件を別途確認します。
同じ顧客コードなら、そのまま結合してよいですか?
文字列が同じだけでは判断できません。両方の表で何を一件としているか、コードの発行主体、統廃合履歴、ゼロ件と複数件の扱いを確認し、代表データで件数と金額を照合してから結合します。
公開上の根拠と着想
使用した資料
- 経済産業省 METI Journal「AI-Readyってなに?」AI-Readyの定義と、データへ意味・関係性を付ける説明を確認しました。
- 佐藤正美『事業分析・データ設計のためのモデル作成技術入門』この記事でTMを説明する際の一次資料です。
- keitaro_aigc:AI導入より先にやる3ステップ。経産省の「AI-Ready」を社内データへ落とす同名項目の意味差、空欄、接続キー、人による確認という実務上の論点を知るために参照しました。
自社の帳票・画面で同じ確認をしたい場合
番号を一つ選び、未確定の箇所まで整理する
相談では、対象業務の番号を一つ選び、一件の意味、つながる相手、確認担当、未確定のまま保留する項目を整理します。AI導入、全社システムの全面刷新、開発契約への申込みを前提にしません。整理後に、社内で続けるか、別の支援を検討するか、いったん保留するかを選べます。